女学生は死なず

 父方の大叔母であるクニヨは、「薩摩生まれのお転婆女学生が、そのまま年をとった」という女である。ころころとした容貌に相応しく、陽気でよく笑い、にぎやかなことがだいすきだった。

数年ぶりに会った彼女は、骨と皮だけにやせ細っていて、病室に入ったときには本人かどうかわからないほどだった。

でも、ベッドに近寄って目を見るとすぐにわかった。ああ、そうだ。この目だ。いたずらっぽく、きらきらしている目。

その日、孫やひ孫に囲まれた彼女は

「まあ、こんなに若い男に囲まれてしあわせだこと」

と言った。そういいながらも、しばらくするときっぱりこう言ったのだ。

「あなたたちはこんなところにいてはだめ。外で遊んでらっしゃい」

その台詞は、ぼくもちいさい頃彼女からよくいわれたものだった。

帰り際にぼくは、「クニヨ、遺影を撮るからポーズして」とせがんだ。彼女はちょっと笑い、親指がするするとあがってきて


カチ 
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# by solalyn | 2017-02-01 03:07 | PROPOS | Comments(0)

Waters of March

 『三月の水』 アントニオ・カルロス・ジョビン


木の枝 石ころ 行き止まり 切り株の腰掛け

少しだけひとりぼっち ガラスの破片

これは人生 これは太陽

これは夜 これは死 これは銃

この足 地面 この身と骨

道路の響き スリングショットストーン

魚 閃光 銀色の輝き

争い 賭け 弓の射程

風の森 廊下の足音

擦り傷 コブ なんでもない

槍 釘 先端 爪

ポタリ ポタリ

この物語の終わり

トラックが運んでくるいっぱいのレンガ

柔らかな朝日の中

銃声 丑三つ時

1マイル やるべきこと

前身 衝突 女の子 韻

風邪 おたふく風邪

家の予定 ベッドの中の身体

立ち往生した車

ぬかるみ ぬかるみ

そして川岸が語る 三月の水


人生の約束 心の喜び

浮遊 漂流 飛行 翼

鷹 鵜 春の約束

泉の源 最終行き

落胆したあなたの顔

喪失 発見

蛇 枝 あいつ あの男

あなたの手の中の棘

そして、つま先の傷

川岸が語る 三月の水


それは人生の約束

それはあなたの心の喜び

一点 一粒 蜂 一口

またたき ハゲタカ

突如の闇

ピン 針 一撃 痛み

カタツムリ なぞなぞ

狩りバチ 染み

枝 石ころ 最後の荷物

切り株の腰掛け

一本道

そして川岸が語る 三月の水


絶望の終わり

心の喜び 心の喜び 心の喜び

この足 地面

枝 石ころ

これは予感 これは希望


- "Águas de março" Lyrics by Antonio Carlos Jobim を、菊地成孔さんがラジオ番組で翻訳・朗読されたものから文字起こししました。まるで写真だ、これは。 -
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# by solalyn | 2017-01-18 18:51 | LYRICS | Comments(0)

Love to Thanatos

 先日、四年半ぶりに死神がやってきた。

今回はニヤニヤ笑うだけで帰っていった。ひらひらと手を振りながら遠ざかっていったその後ろ姿は、どこか自裁した友人に似ていたことに、数日後に気が付いた。
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# by solalyn | 2017-01-16 13:36 | PROPOS | Comments(0)

最後の挨拶2016

 昨日、街ですれちがった自転車に乗った母子の会話。


母「どの道がいい?」

子「坂のない道がいい!」

母「どの道にも坂はあるの!」


今年もお付き合いいただき、ありがとうございました。みなさまもどうぞよいお年を。また生き延びて来年お会いしましょう。ではでは。
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# by solalyn | 2016-12-31 18:02 | PROPOS | Comments(0)

彼方此方

 あるとき、偶々同じ時間に同じ場所にいた二人の男。

なんということもない、その風景が、人知れず永遠に定着される。

写真は不思議だ。

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# by solalyn | 2016-12-16 20:39 | PROPOS | Comments(0)

力点(パワーポイント)を越えて

こどもは、隙あらばわけもなく駆け出す。

大人は、目的がなければ走らない。

ちいさい彼らを見ていると、この目的だらけの世の中を、ほんの一瞬だけ忘れられて、いい気持になる。
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# by solalyn | 2016-12-05 18:50 | PROPOS | Comments(0)

A tribute song

 四年前、「自裁した友人からの形見分けの品」という設定を勝手に作り、普通にフジヤカメラで買ったカメラで撮影。

使い勝手がよく、まぁまぁ気に入っている。
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# by solalyn | 2016-11-30 01:24 | PROPOS | Comments(0)

ギフト

 昔の言い方で、病気になることを「病を得る」という。

そう考えると、病人というのは、半ば神様みたいなものなのかもしれない。
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# by solalyn | 2016-11-29 00:31 | PROPOS | Comments(0)

今夜はスウェーバック

 (ブログの更新のやる気がなかなか起きないな)と思っていると、自分の中のカス・ダマトが叱咤してきた。

「おい、てめえのパンチはそんなに一発が重いのか?」

「ちがうだろう。おめえのへなちょこパンチはな、手数を出してナンボなんだよ」

「おい聞いてやがんのか、この『無名の』傑作主義野郎が」


オーケイオーケイ。あんたの言う通りさ。

まったくうるさいじじいだ。おかげで更新できたがね。
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# by solalyn | 2016-11-25 11:27 | PROPOS | Comments(0)

ミヤザキさんの休息と遍歴―またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行

 先日、宮崎駿さんのドキュメンタリー番組を観た。

陳腐な表現で書いていて嫌になるが、非常に大雑把にいうと、「若い世代や新しい技術に刺激を受けたり、危惧を抱いたり怒ったりしながら、長編映画制作復帰への道程を歩みつつあるかにみえるひとりの老映画監督」の二年間を追っていた。良質なドキュメンタリーだった。

でも、ぼくが観ていていちばんうれしかったのは、宮さん(敬愛の念を込めて勝手にこう呼ばせていただく。なにしろぼくは中学三年生の頃、スタジオジブリのアニメーター募集の記事を妹が購読していたアニメージュ― まだあるのだろうか ―で読んで、中学を卒業したらジブリに入ろうと思っていたくらいだから。三十年くらい前の話だ)が今でもシトロエンの2CVという古い車に乗っていたことだった。
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Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f2.8 1/30
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# by solalyn | 2016-11-16 02:01 | PROPOS | Comments(0)