かれの花が落ちたのは、中央の大日如来の上であった。恵果はこれをみて、
「不可思議、不可思議」
と叫んだという。恵果の師の不空三蔵が、むかしその師の金剛智から灌頂をうけたとき、花が空海と同様、大日如来の上に落ちた。金剛智はそれをよろこび、「不空は他日、大法を興すであろう」といったといわれるが、恵果はむろんその伝承を知っている。いま空海の花が大日如来の上に落ちたのをみて、この東海の僧もまた不空と同様、他日大法を興すかと思い、歎声をあげたのであろうか。
― 司馬遼太郎 『空海の風景』 より ―
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