その曲がカーステレオから流れてきたとき、ぼくはてっきり昔のU2の曲だと思った。そのことをドライバーシートのシンジに告げると、
「ちがうよたくちゃん。これ新曲」
と言われた。
そのとき西暦はちょうど二千年で、ぼくらは26か27で、地元の交通量の少ない夜の県道を、シンジの新しい(以前はワゴンRだったのだ)、ユーノスロードスターをフルオープンにしながらすっとばしているところだった。
「へえ。なんか昔のU2みたいだな。うれしいな」
八十年代に、数々のプロテストソングを歌った彼らは、冷戦終了や、アパルトヘイトの廃止などで、一時的に目的を失い、デジタルを大胆に取り入れたアルバムを制作したりしていた。まるで「模索中」という看板がかかっているみたいに。
それが、今回の曲はまるで昔の曲みたいだった。でも、内容は血の日曜日やマーチン・ルーサー・キングのことじゃなかった。彼らはただ、「すばらしい日だ」と言っていた。
県道はまっすぐ続いていて、夜風は気持ちよかった。
それですっかりうれしくなったぼくらは、ロードスターの立てる風切り音に負けないように、大声でその歌を歌った。
シンジが行方知れずになったのは、それからしばらくしてからだった。ぼくらは26か27だった。
DATA Contax Ⅱ Sonnar 5c.m./1.5 Kodak Tri-X 400 f8 1/1250