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ほんとうはもう

ぼくはオートバイを持っている。

今から17年前の二十歳の冬に中古で買った。それからずっと乗り続けている。そのあいだ一度だけ、手放そうか悩んだことがあった。


友人とのツーリングの帰り道だった。それまで気持ちよさそうにうなっていたぼくのオートバイが、突然くるしそうに息をつきだした。路肩に止めてしばらくするととうとう止まってしまった。ぼくは22歳だった。

数日後、レッカーしてもらった地元のバイク屋のお兄さんから連絡があったのですっとんで行った。

「これねー、もうエンジン駄目だね。修理するとなるとかなり金額かさむよ。下取りに出して、新しいのにしたら」

「もし修理したら、どのくらいするんですか」

お兄さんが答えた金額は、ぼくがそのオートバイを買ったのとほぼ同じ金額だった。

「ちょっと考えさせて下さい」

お兄さんにそういって、その日は歩いて帰った。歩きながら頭がぐるぐるした。


その日の夜に、なにか別の用件で学生時代の彼女とひさしぶりに電話をしていた。ぼくがオートバイを選ぶときも、オートバイがぼくのアパートに運ばれてきたときもいっしょだった。いちばんはじめにぼくがオートバイの後ろに乗せたひとだ。まだ頭がぐるぐるしていたぼくは、いつのまにか彼女に今日のできごとを話してしまっていた。

「ねえ、どう思う」

そうしたら、受話器の向こうから声が聞こえてきた。含み笑いしてるような声が。

「ホントはもう決めてるんでしょう」

ぼくは急に大声で笑い出したくなった。彼女にありがとうと言ってから、電話を切った。ぐるぐるは、どこかへ消えてしまっていた。


いまでもなにかに迷いそうなときに、あの声が聞こえてくることがある。

「ほんとうはもう決めてるんでしょう」

そうするとぼくはいつだって上機嫌になる。


ぼくはオートバイを持っている。
ほんとうはもう_c0226955_1425680.jpg


DATA:Pentaconsix TL Biometar 80/2.8 FUJI PN400N f11 1/500
by solalyn | 2011-04-28 01:53 | PROPOS
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