(略)どれもこれも、鉄砲を撃つ以外に芸のないといった男たちで、共通しているところは、どの顔もするどくはない。にぶい。これは訓練によってできた顔である。鉄砲の訓練とはそういうものだ。
神経のいらだった者や、過敏なたちの者には、とても命中の精妙は期しがたい。
鉄砲は引鉄を、
ひそ
と落とす。指でしぼるように。
その間、呼吸もとまっている。呼吸どころか、神経も、天地万物の影響をいささかでもうけてはならない。
無の境地で撃つ、という。わずかでも心が翳れば指に伝わり、引鉄をしぼってゆく指が平静をうしない、筒口が、微妙に動いてしまう。
この当時、根来面とか雑賀面とかいわれて、鉄砲の妙手には共通した表情があった、とされている。
―司馬遼太郎 『尻啖え孫市』より―
DATA:Leica M6 Canon50/1.2 Kodak BW400CN f1.2 1/125