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射手の貌

(略)どれもこれも、鉄砲を撃つ以外に芸のないといった男たちで、共通しているところは、どの顔もするどくはない。にぶい。これは訓練によってできた顔である。鉄砲の訓練とはそういうものだ。

神経のいらだった者や、過敏なたちの者には、とても命中の精妙は期しがたい。


鉄砲は引鉄を、

ひそ

と落とす。指でしぼるように。


その間、呼吸もとまっている。呼吸どころか、神経も、天地万物の影響をいささかでもうけてはならない。

無の境地で撃つ、という。わずかでも心が翳れば指に伝わり、引鉄をしぼってゆく指が平静をうしない、筒口が、微妙に動いてしまう。

この当時、根来面とか雑賀面とかいわれて、鉄砲の妙手には共通した表情があった、とされている。


―司馬遼太郎 『尻啖え孫市』より―


射手の貌_c0226955_392410.jpg


DATA:Leica M6 Canon50/1.2 Kodak BW400CN f1.2 1/125
by solalyn | 2010-07-04 03:11 | WORDS
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