ピエールのこと

まず最初に断っておくが、ピエールは変態で、日本人だ。

でも、この言い方はフェアじゃない。ピエールから見たら、ぼくのほうがよほど変態に見えただろう、と思う。なにしろその土曜日は近所のバーの年に一度の「セーラー服ナイト(第二回)」の日で、ぼくは前日にアマゾンで購入した、ビニールレザーでできた、体にぴったりとフィットするセーラー服を着て脚には網タイツを穿き、黒いロングブーツに亜麻色のセミロングのウィッグまで着けていたのだから。四十過ぎた中年男が、である。

まあとにかくそんなところでぼくらは初めて出会った。ぼくのピエールへの第一印象は最悪だった。あたりかまわず写真を撮りまくり、大声で笑う。

(なんて野郎だ。俺はぜったいに口を利くまい)

ビニールレザー(パット入り)に包まれた胸のうちで、ぼくはカウンターで固くそう決意した。

だがそのあと、みんなでフレンドリーに行こうぜ!という感じの知人(みなさんの周りにもかならずいらっしゃるはずだ。もしもご自分がそうだとおっしゃる方がいらっしゃるのなら、ご無礼、ご無礼)に拉致され、テーブル席に移動した。はじめはお互い離れていたのだが、まあああいう席では並び順なんてどんどんシャッフルされていくもので、何かの拍子にぼくと彼はテーブルを挟んで向かい合う形になった。

彼が写真展(その近所のバーはギャラリーもやっているのだ)の作家さんに話しかけているのを、聞くとはなしに聞いていた。

作家さんのプリントを買った?へえ、結構ですな。


そのあとだった。彼は続けてロバート・メイプルソープのプリントも今日買ってきたのだ、と大声で言った後で、壁面を飾る作家さんの作品の一点をまっすぐ指さしながら、たしかこう言ったのだ。

「ぼくにとっては、メイプルソープも、○○さんのプリントも同じ価値です。どちらも本物で、うつくしい」

そのことばに驚いて彼の顔を見ると、今までとまったくちがう目をしていた。熱情で、輝いていた。


ああ、見つけた。本物の人間だ、こいつは。


そう思ったぼくはすぐに彼となかよくなり、ふざけ散らしながらたくさん酒を飲み、ぼくは彼を「ピエール」と名付け、彼はぼくを「ビルマ」と名付けた。ぼくが坊主頭だったからだ。

お互いのその安直さがうれしくて、ぼくらは意味もなくお互いの名前を連呼してはゲラゲラ笑った。夜が更けていった。
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DATA:Contax Ⅱ Sonnar 5c.m./1.5 Kodak Tri-X 400 f2.5 1/50
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# by solalyn | 2016-03-08 02:23 | PROPOS | Comments(2)

秋葉原からオリュンポスまで

先日、「しゃべる鳩」というものを初めて見た。というか、出会った。


その日、所用で秋葉原から岩本町へと歩いていると、橋の欄干から低いバリトンが聞こえてきた。見ると、二羽の白い、ほんとうに白い鳩が並んでいた。好奇心をそそられた私は、立ち止まって欄干にもたれ、誰かを待つふりをしながら聞き耳を立てた。

「ヘーラーよ、ゆうべのNHK特集を見たか。なげかわしい。かつてはわれらを信じていた者どもの末裔と称するものたちが、バビロンの街とひとびとをいかに残酷に取り扱ったことか。あれがカエサルの末裔だと。まったく手に負えん」

それに答える声は銀の鈴のような声だった。

「あなた、大神よ、あれらはもう、かつてわれらを敬ってくれた者たちとはまったくの別のものたちなのですよ。ちょうどアンフォラに注がれていたかぐわしいネクトルが、長い年月のうちに封をした松脂が溶け込んでしまって駄目になるように」

それを聞いてもバリトンは収まらない。

「あやつらも、あやつらの相手のかつてのフェニキアびとの言い分もまったく常軌を逸しておる。『我らの信ずる神とちがう神を信ずるものは悪魔だ』と。いやはや!」

そのあとしばらく沈黙があったあと、バリトンはクルックルッと鳴いた。

いや、それはどうやら私の聞き間違いだったようで、彼(?)は忍び笑いをこらえていたのだった。しまいには彼はとうとう大声で笑い出した。

「あっはっは。そ、それではアテナイはデルフォイと何の理由もなく戦をせねばなるまいて。なにしろデルフォイはアポローンを奉じておるからのう。アレクサンドロスとダレイオスは、お互いを悪魔と思うていつまでも戦わねばならぬのか。なんとしたことじゃ」

笑いながら息も絶え絶えに語っていた言葉は、だんだん低く、ちいさくなった。さいごにほとんど聞き取れないほどの声で「なんとしたことじゃ」と呟いた。


沈黙を破ったのは、銀の鈴だった。

「あなた、大神よ。それでも我らを信ずるものたちはまだ絶え果ててはおりませぬ。アルテーを持つ者、アルテーを愛する者どもが残っておりまする」


そこまで聞ければ充分だった。私は心の中で彼らに別れの挨拶を唱え、立ち去った。

「どうもありがとう。死すべき運命の人の子として感謝いたします。私たちに、もちろんあなたがた不死の神々にも、遍くゼウスのご加護がありますように」
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# by solalyn | 2016-02-18 03:50 | PROPOS | Comments(0)

奔流

先日、表参道での仕事帰りで駅に向かっていると、交差点近くの瀟洒なショーウィンドーの前に犬を連れてたたずんでいる男性を見かけた。

彼は見たところ五十代くらいで、映画『シザーハンズ』でジョニー・デップが着ていた(この言い方はほんとうは正確ではない。あの映画での彼の役はアンドロイドだかなんだかで、あれが洋服だったのか、それとも洋服を模しただけの機械的装備品なのかは言及されていなかったから)ような黒っぽい、質感がラバーのような不思議な上着を着ていた。髪型もどうやら最新流行のものらしくみえた。もしまだこの世界に「最新流行」なんてものが存続しているのならば、だが。

連れていた犬も洋犬だが、ピレネーでもドーベルマンでもマスチフでもボルゾイでもない、大型犬ということくらいしかわからない不思議な犬だった。

その未来人のような男と犬を見ていて、ふとこう訊ねたくなった。

「えーと、あなたは、ほんとうに、そんな暮らしを望んでいるのですか?この先には、なにを望んでいるのですか?あなたの行き先は、どこなんですか?」


そこまで考えて、自分もその質問には答えられないことに気が付いたので、黙ったままその場を去った。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f5.6 1/250
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# by solalyn | 2016-02-16 02:47 | PROPOS | Comments(0)

Fields of gold

そうっと、そうっと。

邪魔にならないように。

写真を撮ったら、サヨウナラ。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/1000
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# by solalyn | 2016-02-08 01:30 | PROPOS | Comments(0)

Flags

「・・・オレ、この戦争が終わったら、『ソリ』ってやつを手に入れて、一儲けするんだ」
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DATA:Hasselblad 500c/m C Planar 80/2.8 Fuji PN400H f5.6 1/125
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# by solalyn | 2016-02-01 01:42 | PROPOS | Comments(0)

うたかたの記

 みなさんこんばんは。きょうは先日の畏友トダさんとの酒場での与太話の断片をトダさんに無断でお届けします。


僕:「いやー、最近もうビジネス書とか、わけわかんないくらい出てますよね」

ト:「そうそうそう。すごいよね。もう名前とかぜーんぜんわかんないもん」

僕:「最近だとあれじゃないですか。トマ・ピケティとか」

ト:「えーぜんぜんわかんないよ」

僕:「ぼくも未読ですよ。いやでも今の時代に今のものばっか読んでてもあかん気がするんですよね経済書も」

ト:「だよねだよね」

僕:「やっぱり、リー・アイアコッカとか」

ト:「アイアコッカ(笑)あとはあれだね、邸永漢とか」

僕:「テーエーカン!」

二人:「(笑)」
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/500
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# by solalyn | 2016-01-21 18:23 | PROPOS | Comments(0)

"Mon ami"

 マーク・エリオット・ザッカーバーグ氏によると、俺たちは(Facebook上で)友達になって一年経ったらしいぜ兄弟。
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DATA Hasselblad 500c/m C Planar 80/2.8 Fuji PN400H f2.8 1/30
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# by solalyn | 2016-01-15 02:20 | PROPOS | Comments(0)

誰もみな手を振って

 こんばんは。なにかこう洒落たことを書きたかったのですが、なんにも思い浮かびませんでしたので、昨夜の話をひとつ。


新宿ゴールデン街にある写真酒場「こどじ」に、写真家の岡本正史さんの写真展を観に行き、いつもどおり、写真以外の与太話だけしての帰り道。いかつい黒人さんの横を通り過ぎた瞬間、彼が大声で叫び始めたが無視して歩いた。(新宿こえーなー)などと思いながら歩いていると、なかなか背中越しの叫びが止まない。それどころか、どんどん近づいてくる。

「ヘイ、ヘイ!」

とうとう彼はぼくに追いついた。すこし息を弾ませながら、彼がぼくのほうに差し出した掌には、ぼくが落とした手袋があった。


みなさま。今年も拙ブログにお付き合いくださり、ありがとうございました。

どうぞよいお年をお迎えくださいね。ではでは。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/1000
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# by solalyn | 2015-12-29 18:14 | PROPOS | Comments(0)

キャパとゲルダとゲルダの話

私のおかしなハンガリー人さんへ


ひさしぶりにあなたに手紙を書いています。ほんとうにひさしぶり。1947年か48年が最後だったはずだから、17、8年ぶりになるのね。まったくなんてことかしら!

なぜひさしぶりにあなたに手紙を書いているかというと、どうしてもあなたに報告したいことができたから。それは、私の最新作に関することなの。

大傑作ってわけじゃないわ。たぶん、ふつうに当たりを取るでしょうけれど、数年後には忘れ去られるような、そんな映画。

そう、映画そのものについてじゃないの。話したかったのは、その映画での私の役名についてなの。

ゲルダ・ミレットというの。そうよ、「あなたの」ゲルダから採ったの。

どうして私が彼女の名前を知っているかって?今だから教えるけれど、あなたはよく寝言で彼女を呼んでいたわ。やさしい口調や厳しい口調、哀願しているときもあったわ。

でも、いちばんよく聞いたのは、あなたが彼女の名前を大声で叫んでいる声よ。泣きながらね。

だから私は、あなたのヨーロッパ時代からの古い友人たちにその名前について聞いたの。そして、私は知ったわ。

彼女はあなたのキャリアの初期のパートナーで、優秀なカメラマンだったこと。ある時期は私的にもパートナーだったこと。あなたが唯一本心から結婚したいと願ったひとだったということ。スペイン内戦で戦車に轢かれて死んだことも。

最初は頭に来たわ。私との結婚についてはのらりくらりとかわすくせに、って。

そうしてあの後しばらくして私たちは別々の道を歩くことに決めたんだったわね。

今年、この『黄色いロールス・ロイス』という映画のオファーが来たとき、私の役名はまだ決まっていなかった。エージェントは、「イングリッド、あなたご自身で名付けてもアンソニー(監督よ)は一向にかまわないそうですよ」と私に伝えてきたわ。

その話を聞いた後で車に乗っていると、ラジオから聞こえてきたの。あなたについてのニュースが。

「・・・今日5月24日は、世界的な報道写真家だったロバート・キャパ氏が、インドシナで取材中に死亡してからちょうど10年に当たり云々・・・」

それを聞いて、私はいっぺんにあなたとの日々を思い出したの。そうして突然思いついたの。そう、ゲルダよ。名前はゲルダにするわ、って。

あなたは怒るかしら。それとも大笑いするかしらね。ああ、私もあなたの大笑いする顔がとても好きだったのよ、ボブ。みんなと同じように。でも、そうじゃないときの、あなたもなかなかよかったわよ。

安心してね、この手紙は、書いたら焼き捨てます。あなたとゲルダの名誉のために。それと多少は、私自身のためにも。

それじゃあ、また。


愛をこめて。


あなたのイングリッド
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f11 1/1000
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# by solalyn | 2015-12-22 01:47 | PROPOS | Comments(0)

【朗報】 『画像の墓場』がリニューアルして復活です。

こんばんは。

さて、今夜のお題は表題の通りです。

(・・・ほほう)

という当時の人も、

(・・・?なんのことだかわからんぞ??)

というお初の人も。来たれ写真好き。みんなで写真を投稿したり、気に入った写真にコメントしたりしてたのしみましょう。

ではでは↓


(続)画像の墓場
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kentmere 400 f2.8 1/30
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# by solalyn | 2015-12-21 19:18 | PROPOS | Comments(0)