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ヤス君と。

ぼくらはねー、たくちゃん。こうやって益体もない話を延々と十年以上続けてきてさ。ずっと写真してきてるんですよ。撮ってるとき以外は。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f2.8 1/30
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by solalyn | 2015-02-27 15:28 | PROPOS | Comments(2)

ドレスデン

やはり、来るべきではなかった。

息子夫婦に誘われて、極東の島国まで来たものの、ささいなことから口論になり、ホテルを飛び出してしまった。ここは、どこなのだろう。アサクサからさほど遠くないところにいるはずだが。

そもそも私はこの国が嫌いだ。猿真似で私の父(ドレスデンのカメラ工場で職長をしていた)たちのカメラを盗み、安い値段でそれを世界中に売りさばいた。父たちはやがて職を失った。嫌いになって当然だろう。

それにしても、どうしてこの国のひとびとは皆カメラをぶら下げているのだろう。ベルリンでもこれほど多くはなかろうに。いやはや。

そらまた向こうからやってきた。青年のように見えるが、年はわからない。東洋人はみかけよりずっと年嵩だったりすることがある。なぜそうなのかは知らないが。

大きなカメラをぶら下げているな。 ほう。こりゃ骨董品だ。ニコンの古いやつか。モータードライブが付いているな。

いや、ちがう。私は夢を見ているのか。おお神様こんなことが。

父さんのカメラだ。

KW社製のPRAKTINA FX。ゼンマイ式ワインダーの付いたやつだ。そこで私は突然思い出した。1952年。ドレスデンの、あのちいさな煤けた家を。


ぼくは怒っていた。その日、すごく久しぶりに早く帰ってきた父さんと夕食をとりながらずっと黙っていた。父さんは長いこと時間をかけた、「カメラのカイハツ」がようやく終わったとかで、とても上機嫌だったし、母さんもやっぱりうれしそうだったが、ぼくは怒っていた。ちょうどおっちょこちょいで有名な工員が、カメラに捺す刻印を上下逆さにつけてしまった話を愉快そうに話していた父さんを前に、ぼくは堪えきれずに泣き出してしまった。

父さんはびっくりして話をやめた。そうしてぼくに聞いたんだ。「エーリッヒ、坊や、どうしたんだい。お腹が痛いのかい?」って。

「そんなんじゃないやい」ぼくはしゃくりあげながら答えたんだ。「おとうさん、おとうさんたちは、ロシア人のスパイなの?」

「どうしてそう思うんだい」

「学校で、ハインリッヒや他のみんなが言うんだ。『うちのとうちゃんが言ってたぞ。お前のとうちゃんたちが作るカメラにはな、ロシア人のスタンプが捺してあるんだ。あんなもの、ドイツのカメラじゃないや』って」

父さんは笑い出した。「そうかそうか。何年か前までは、父さんたちはユダヤ人のスパイだって言われたものだがね。忙しいもんだ」それから笑うのをやめて母さんに言ったんだ。「ハンナ、あのカメラを持ってきてくれないか」

それから母さんが持ってきたカメラは、いやに大きくってごつごつしていて、見たこともない変な形をしていた。

「変なカメラ」

「ははは、そうだろう。でもねエーリッヒ、このカメラは、世界を変えるカメラになるんだよ」

「えー、このヘンテコが」

父さんはまた笑って、ぼくをおひざの上に乗っけてくれた。ぼくはこの『エーリッヒの特等席(母さんが名づけた)』に座るのが、ずいぶん久しぶりだったことを思い出した。そうしてほくほくしているぼくの手に、ヘンテコを持たせてくれた。

「うわー重いや」

「そうだろう。ハインリッヒ君の言っていた、『スパイのマーク』がこれだよ」

「ふうん。ぼくにはただの字にしか見えないけどな」

「そうだよ坊や。そんなのはただの文字なんだ。誰にどんなスタンプを捺されたって、こりゃまちがいなく父さんたちドイツ人が作った、ドイツのカメラなんだよ」

父さんは大事そうにそのカメラを撫でた。そうして言ったんだ。ひとりごとみたいに。

「ようやくできた。これはね、父さんたちの夢のカメラなんだ。思いついてから出来上がるまで、ほんとうに時間がかかった。長い長い時間が」

「おまえたちが大きくなる頃には、みんながこのヘンテコなカメラや、これによく似たカメラを持って、ニューヨークや、ペキンや、アフリカのジャングルを歩いていることだろうよ」

ぼくは父さんのあったかいひざでそんな話を聞きながら、眠ってしまった。


トーキョーの夜はベルリンほどではないが、やはり二月だ。冷える。青年(?)とすれちがうとき、彼の右手はカメラのてっぺんを撫でていた。父さんと同じように。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f5.6 1/250
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by solalyn | 2015-02-26 00:18 | NOVELS | Comments(0)

昭和七年のコロコロコミック

今日(というか、もう昨日になってしまったけれども)、竹橋で所用のあと、そのまま足を延ばしてひさしぶりに神保町を歩いた。本が好きなので普段から行けばいいのだが、いつもは大手古本チェーン(例の黄色いところだ)の百円均一文庫コーナーで大抵済ませてしまう。あそこは砂金の採れる川みたいなところで、とてもおもしろい。

では神保町はときめかないのか?と言われれば、それはちがう。建築、映画・演劇、写真、内燃機関の乗り物全般などについてのそれぞれの(!)専門書店。洋書の稀稿本、江戸時代の和綴じの滑稽本や黄表紙を主に扱っている店。etc、etc・・・。まったく関心のないジャンルのものでも、手にとってパラパラめくっていると、存外おもしろいものだ。

そうやってゆっくり巡回していたうちの一軒の店頭ワゴンの中に、『少年倶楽部』を見つけた。奥付を見ると、「昭和七年」とあった。手にとって斜め読みする。

あー、のらくろが載ってら。おお、景品は日光写真機かあ。なんだかこうやって眺めてると、猛烈に欲しくなってくるなあ。「少年飛行兵募集!」10才の少年なら、昭和二十年には23才か。いろいろ考えちゃうな。

そのうち後ろの方の戦記もので、バロン滋野の伝記を見つける。
男爵 滋野 清武。通称バロン滋野は、第一次大戦中、仏軍に志願し、六機を撃墜。同大戦中日本人唯一の撃墜王。

「やったぞドイツ人をやっつけた」なんて書いてある。昭和七年といえば、日独防共協定締結のたった四年前だ。

昭和七年。ヒトラーが政権を取るほんの一年前。ぼくの祖父は24才。九年後に父が生まれ、十二年後に軍医として予備役招集され、南の島で自決した。

また景品を見つけた。幻灯機だ。「マボロシのトモシビ」か。そう思うと、なんだか北風が一層身に沁みた。
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DATA:Leitz minolta CL M-Rokkor QF 40/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/500
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by solalyn | 2015-02-10 02:00 | PROPOS | Comments(0)

栩栩然と

題を『荘子』からとった。荘子―荘周―は夢に胡蝶に化(な)った。荘周自身、自分は人間だと思っていたが、実態が胡蝶であって胡蝶が夢を見て荘周になっているのか、荘周が夢を見て胡蝶になっているのか。『荘子』が問いかけた設問は、この作品を書きおえても私には答えられない。


― 司馬遼太郎 「『胡蝶の夢』雑感」より ―
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f2 1/15
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by solalyn | 2015-02-06 01:51 | WORDS | Comments(0)