<   2014年 03月 ( 4 )   > この月の画像一覧

大きさの話

「米内さんの食べものは酒なんですよ。あの時『もう少し馬鹿になれ』と言われていやいや覚えた酒が、のちに妙高艦長陸奥艦長時代、どれだけぼくの役に立ったかわからない。四十二にもなって、上海のころは我ながらピュアなもんだったと思うが、米内さんの純粋さと僕なんかのそれとは、少しスケールがちがっていた。どんな意味でも私心というものが米内さんにはありませんでした。大酒飲んでも女遊びをしても、それで人柄の曇る人と光ってくる人とがあるんでネ」


― 阿川弘之 『米内光政』 より ―

c0226955_0384848.jpg

DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kentmere 400 f8 1/1000
にほんブログ村 写真ブログ モノクロ写真へ

[PR]
by solalyn | 2014-03-25 00:49 | WORDS | Comments(0)

みやこどり

仕事の撮影のために、都内をうろうろする日が続いている。

昨日もそんな風にして言問橋の袂にある公園の辺りをうろうろしていると、石碑に線香を立ててお祈りしている老人がいた。お墓ならともかく、公園の石碑にそんなことをしている人を見ることはめったにない。いや、ぼくは初めて見た。それがいったいどんなものなのか気になったぼくは、彼が立ち去ってからそこに刻んである文字を読んだ。

あゝ 東京大空襲 朋よやすらかに

そうか。ここは言問橋か。


1945年3月10日。隅田川の両岸にまたがる江東区・墨田区・台東区の木造住宅密集地から焼け出されたひとびとは、みな大川を目指した。大川に行けば、助かる。

東と西から押し寄せた群衆で、橋上は身動きが取れなくなった。344機のB29が投下した焼夷弾による火災の屏風が、次第に両岸からひとびとに迫る。


2014年3月10日。今期最高の寒さと予報された日。風は強いがいい天気だ。石碑から言問橋を見上げる。どこかのお母さんが、自転車の後ろに子供を乗せて通り過ぎる。


名にし負はば いざこと問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと  業平
c0226955_22275836.jpg

DATA:Leitz minolta CL M-Rokkor QF 40/2 Kentmere 400 f8 1/1000
にほんブログ村 写真ブログ モノクロ写真へ

[PR]
by solalyn | 2014-03-11 23:23 | PROPOS | Comments(0)

タイムトラベル

先生

こんばんは。

先日の同窓会では、四半世紀ぶりにお会いできてよかったです。あの頃、特攻隊あがりだという先生は、とても恐かったです。よく怒られてましたしね、ぼく。

先生が好々爺になっている姿を目にするなんて、まして自分が先生の写真を撮る日が来るなんて、あの頃は思いもしませんでした。人生は不思議ですね。

夏にはこれを手焼きしてお届けしますね。それまで、いや、そのあともどうか、お元気で。

愚生
c0226955_0182933.jpg

DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kentmere 400 f2.8 1/60
にほんブログ村 写真ブログ モノクロ写真へ

[PR]
by solalyn | 2014-03-10 00:47 | PROPOS | Comments(2)

時刻はいつも午前三時

フィッツジェラルドの『夜はやさし』を手にしたのはちょうどそんな年だった。既に絶版になっていた荒地出版社の翻訳本を古本屋で見つけて買い求め、たいした期待もなしに読み始めた。読み終えた時もそれほどの感動があったわけではない。たしかに美しく哀しい小説ではあるけれど、長編としての構成が散漫にすぎるし、だいいち長すぎる。僕は読み終えた『夜はやさし』を本棚にしまいこみ、現実の渦のなかに戻っていった。

何ヶ月かが過ぎた。そして突然何かがやってきた。説明することなんてできない。僕は本棚からもう一度『夜はやさし』をひっぱり出して貪るように読み始めた。今度は感動がやってきた。それはこれまでの読書体験では味わったこともないような感動だった。数ヶ月前には冗長だと感じた文章の底には熱い感情が暗流となって渦を巻き、堅い岩盤の隙間から耐えかねたようにほとばしり出たその情念は細やかな霧となり、美しい露となって一ページ一ページを鮮やかに彩っていた。


― 村上春樹 『フィッツジェラルド体験』 より ―
c0226955_23325921.jpg

DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kentmere 400 f2.8 1/30
にほんブログ村 写真ブログ モノクロ写真へ

[PR]
by solalyn | 2014-03-06 23:53 | WORDS | Comments(0)