カテゴリ:WORDS( 74 )

スリット

 私たちの自己や世界は、物語を語るだけでなく、物語によってつくられる。そうした物語はとつぜん中断され、引き裂かれることがある。また、物語は、ときにそれ自体が破綻し、他の物語と葛藤し、矛盾をひきおこす。

 物語は、「絶対に外せない眼鏡」のようなもので、私たちはそうした物語から自由になり、自己や世界とそのままの姿で向き合うことはできない。しかし、それらが中断され、引き裂かれ、矛盾をきたすときに、物語の外側にある「なにか」が、かすかにこちらを覗き込んでいるのかもしれない。


― 岸政彦 『断片的なものの社会学』 より ―
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by solalyn | 2016-09-08 00:41 | WORDS | Comments(0)

よすが

 そう遠くない未来の話、私がこの地上と分かれる日が来て、私の好きなシーンや形、たとえば暮れなずむ隅田川、青いウィーンの森、配偶者とのウィットに満ちた会話、首をのけぞらせて笑うガールフレンドの仕草など、こまごました地上の記憶と別れなくてはならなくなった時、私がカメラで記憶にとどめておきたいのは、ライカM型の両側がカーブした、あの丸みである。


― 田中長徳 『チョートクのカメラジャーナル No.3』 所収 「ライカ 今は仕事の道具 そして将来は地上の思い出?」 より ―
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by solalyn | 2016-05-07 01:20 | WORDS | Comments(0)

高貴な野良

 (略)若者が活力をもつためには、社会から馴致(じゅんち)されるな、ということである。古いことばでは、

「不羈(ふき。羈は手綱)」

という。手綱で制御されないという意味である。

ただし、この場合のむずかしさは、自分で自分の倫理を手製でつくらねばならないことである。しかも堅牢に、整然とである。でなければ、社会に負かされ、葬られる。

人間は大思想や社会によって馴致されて人間になるといいながら、じつは、古来、真に社会に活力を与え、前進させてきたのは、このような馴致されざるひとびとだった。


― 司馬遼太郎 『風塵抄 二』 所収 「飼いならし」 より ―
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by solalyn | 2016-04-16 17:13 | WORDS | Comments(0)

いついつ出やる

 過日、ブックオフの百均文庫コーナーで、司馬遼太郎の地味目な三冊を発見したので、どれか一冊にしようとパラパラと手繰ったときに、次の文章が目に飛び込んできた。


「間違っていた?」

「はい」

「なにをだ」

「殿様を一生里のそばに引きとめておこうと思いましたこと。殿様は、やはり、青い雲のうえで舞う鷹でございますね」

「妙なことをいう」

「籠のなかに入れて飼う鳥ではございませぬ」

「おれが、鷹というわけかね。それは、お里の目すじちがいだ。鷹ならば、籠のなかでねむっていても、天へのあこがれがあるだろう。いずれは籠の目を掻き、くちばしで食いやぶってでも天へ飛びたつ。おれには、天がない。男のこころざしという、天がない」

「ちがいます。殿様が申される天とは、土佐二十二万石の大名に、もう一度おなりあそばすということでございますか。それならば、殿様は、きっと気重でございましょう。旅へ出て、いちど来た道を、もう一度ひきかえすようなものでございますから。殿様は、そんなことにお志を燃やせないのにちがいございません」

「お里は、二十二万石はおろか、この盛親に天下でもねらえというのか」

「いいえ。男の天とは、そのように、目で見、耳できけるものではございますまい。二十二万石や百万石という、文字で書けるようなものではなく、男が、ご自分のもってうまれたお才能(うつわ)を、天にむかって試してみることではございませぬか」


― 司馬遼太郎 『戦雲の雲』 より ―
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DATA:Contax G2 G-Planar 35/2.8 Kodak Tri-X 400 f5.6 1/125
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by solalyn | 2015-10-21 01:58 | WORDS | Comments(4)

裏切り者の名を受けて

 ユリアヌスについて深くも考えていなかった頃の私は、この若き皇帝を、アナクロニズムの代表のように見ていたのである。彼が行い、行なおうとしていたことは時代錯誤であり、時代の流れに逆らうことしか考えなかった、思慮の浅い人物だろうと思い込んでいたのだった。

(中略)

ユリアヌスは、このような時代に、一石を投じたのである。もしも彼の治世が十九ヶ月ではなくて十九年であったとしたら、なおも十九年生きたとしても五十歳で死ぬことになるので充分に可能性はあったのだが、もしもそうであったとすれば彼が投じつつあった石も数を増していたであろうし、十九年の間にそれは、流れを変えるまでになっていたかもしれないのである。もしもそうであったとすれば、キリスト教徒であることが現世でも利益になるとは、ローマ人も考えなくなったかもしれない。そして宗教は、現世の利益とは無関係の、個々人の魂を救済するためにのみ存在するもの、にもどっていたのではないだろうか。

― 塩野七生 『ローマ人の物語 XIV キリストの勝利』 より ―
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by solalyn | 2015-10-06 16:48 | WORDS | Comments(2)

Amazing,Incredible,and Awesome.

 かれの花が落ちたのは、中央の大日如来の上であった。恵果はこれをみて、

「不可思議、不可思議」

と叫んだという。恵果の師の不空三蔵が、むかしその師の金剛智から灌頂をうけたとき、花が空海と同様、大日如来の上に落ちた。金剛智はそれをよろこび、「不空は他日、大法を興すであろう」といったといわれるが、恵果はむろんその伝承を知っている。いま空海の花が大日如来の上に落ちたのをみて、この東海の僧もまた不空と同様、他日大法を興すかと思い、歎声をあげたのであろうか。


― 司馬遼太郎 『空海の風景』 より ―
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DATA:Leitz minolta CL M-Rokkor QF 40/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/500
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by solalyn | 2015-08-19 01:13 | WORDS | Comments(0)

深夜高速

いつものバーでいつもの友人たちと会った。

ふとしたときに、ある友人が、

「俺ほんとは暗いし、さびしいんですよ」

と言った。いつもおだやかで多趣味で面倒見がよくて、やさしい友人。


あのね、あのとき、笑って冗談にしてしまったけど、ほんとうは、わかってるから。わかってるから。


教えてくれた、あの歌の歌詞みたいに、

「生きててよかった。そんな夜を探してる」

ことも。
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DATA:Contax Ⅲ Sonnar 5c.m./1.5 Kodak Tri-X 400 f8 1/1250
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by solalyn | 2015-07-06 01:07 | WORDS | Comments(0)

フォルトゥーナの前髪

「幸運は勇気ある者を助ける」


有名な古代ローマの格言ですが、オリジナルのラテン語だと、ニュアンスが微妙にちがいます。

"FORTUNA FAVET FORTIBUS"

おそらく、ニュアンス的には、

「幸運の女神は、勇気ある男を愛する」

でしょうか。


こちらのほうが、地中海っぽくて、個人的には気に入っています。ではでは。
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by solalyn | 2015-07-02 02:14 | WORDS | Comments(0)

あのころ

(略)あのころ、わたしは世界というものを書物を通してしか知らなかったし、世界は詩人たちがえがいた通りのものだと信じ込んでいた。


― ワシントン・アーヴィング 著 吉田甲子太郎 訳 「クリスマス」より ―
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DATA:Contax Ⅱ Sonnar 5c.m./1.5 Kodak Tri-X 400 f8 1/1250
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by solalyn | 2015-06-28 16:16 | WORDS | Comments(0)

ILLUSIONS

家族の絆は血ではない。


― 『イリュージョン』 リチャード・バック著 村上龍訳より ―
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DATA Minolta CLE M-Rokkor 28/2.8 Fuji 業務用400 f2.8 1/30
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by solalyn | 2015-06-15 23:58 | WORDS | Comments(0)