先日、地下鉄の車内を、どぶねずみが疾走しているのを見た。
黒い鏃(やじり)のような影が、床すれすれを弓から放たれた矢のようにすっ飛んでいく。悲鳴を上げて脚をばたつかせる女性客。にやにやするおじさん。歓声を上げる若者たち。
おまえはさ、すごいね。そんなちっさな体でさ、街中そりゃあ大騒ぎさ。アビキョーカンのルツボってえやつだ。
そんなことを思っていると、遠ざかっていった悲鳴のウェーブが、引き波のように帰ってくる気配がした。
ははあ、こりゃあまた来るな。そう思って、ライツミノルタの距離を2メートルにセットして待つ。やがて悲鳴がどんどん大きくなって
カチ
DATA:Leitz minolta CL M-Rokkor QF 40/2 Kodak Tri-X 400 f2.8 1/30