仕事の撮影のために、都内をうろうろする日が続いている。
昨日もそんな風にして言問橋の袂にある公園の辺りをうろうろしていると、石碑に線香を立ててお祈りしている老人がいた。お墓ならともかく、公園の石碑にそんなことをしている人を見ることはめったにない。いや、ぼくは初めて見た。それがいったいどんなものなのか気になったぼくは、彼が立ち去ってからそこに刻んである文字を読んだ。
あゝ 東京大空襲 朋よやすらかに
そうか。ここは言問橋か。
1945年3月10日。隅田川の両岸にまたがる江東区・墨田区・台東区の木造住宅密集地から焼け出されたひとびとは、みな大川を目指した。大川に行けば、助かる。
東と西から押し寄せた群衆で、橋上は身動きが取れなくなった。344機のB29が投下した焼夷弾による火災の屏風が、次第に両岸からひとびとに迫る。
2014年3月10日。今期最高の寒さと予報された日。風は強いがいい天気だ。石碑から言問橋を見上げる。どこかのお母さんが、自転車の後ろに子供を乗せて通り過ぎる。
名にし負はば いざこと問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと 業平
DATA:Leitz minolta CL M-Rokkor QF 40/2 Kentmere 400 f8 1/1000