ところで時計職人というのは、とても正しい職業だ。
歯車の大きいのや小さいのや、ゼンマイやリューズや、
その他ぼくになんか到底分からないような部品を生真面目に扱い、
右目に例の凸レンズを嵌めて、コツコツチクタク時計を直す。
もしこの世から小説家や画家がいなくなっても、誰も全然困らないけど、
仮に時計職人がいなくなったら、この世はたいへん困る。
立派で、正しい職業だ。
時間というものの正体は、今のところ物理学者にも解明できていないけど、
唯一時計職人だけは、それを知っているような気がする。
だから彼らは、あんなに熱心に時計を直してくれるんじゃないかな。
ついでにぼくの過ぎ去った時間についても繕ってくれれば、
なおありがたいのだけれど。
―「時間」 (原田宗典 『黄色いドゥカと彼女の手』 所収)―
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