私が酒場で隣り合わせた、まるで美術室の石膏像のような顔をした老人に話しかけられたのは、大晦日の夜だった。
最初は少しおかしい人なのだろうと思って適当に相槌を打っていたのだが、彼の、できたてのパルテノン神殿の柱廊もかくや、という気品に、いつしか私は真剣に質問に答え始めていた。
「お前たちは水道が引かれているのに、わざわざ別の水を買って飲んでいるというのは本当かね」
「本当です」
「誰も飢えずに暮らしていけるというのは」
「・・まあ、そうです」
「それではまた黄金時代がやってきたというわけだ。人々は皆さぞ幸福なんだろうな」
私は何も答えられない。彼は優しい、哀しい目で私をじっと見つめている。
DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak BW400CN f8 1/500