夢十夜

 こんな夢を見た。

夜。火事である。私の実家らしき家が燃えている。運び出されるひとびと。私はその中に父の姿を見つける。私が彼に近づくと、彼も私に気が付き、歩み寄ってくる。呆然とした表情で。そして私に告げる。デルフォイの巫女たちのように。

「拓、おかあさんが」

私はその一言ですべてを悟る。私はなおも呆然としている父の背中をさすりながら何事か慰めの言葉をかける。


私は実家の居間にいる。台所から出てきた母が私を見てほほ笑む。だが、私はもう知っている。ほんとうは何が起こったのかを。
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DATA:Leitz minolta CL M-Rokkor QF 40/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/500
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# by solalyn | 2017-06-07 01:17 | PROPOS | Comments(0)

ぜんぶ

 先日、仕事の撮影の合間に、見知らぬ街を稼がないほうのカメラを持ってほっつき歩いていたときの話。

ちょうど丘の上から駅前の喫茶店に向かって道を下っているときに、女の子たちの話声が聞こえてきた。キャーキャー言っている。中学生ぐらいかな。ちょうど下校の時間か。だんだん声が近づいてきた。

「はい!1、○○君、2、○△(呼び捨て)、3、○□先輩。さてどれでしょう!」

間髪入れずに他の子が口々に○○君だの○□先輩だのと答える。

「ブーッ。ちがいますっ」

少女たちがほんのひとときしかとどまることができない、あの時期特有の輝かしい笑い声をはじけさせる中で、問いを発した少女は高らかに宣言した。

「正解は、全部でした!」
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/1000
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# by solalyn | 2017-06-03 00:38 | Comments(0)

うつってしまうものたち

 最近、「距離1.5~2メートルでのスナップショット」がマイブームである。

上がりを見て、いまだに驚きやよろこびを感じる。つくづくスナップショットはおもしろいなと思う。極々まれに、人生の謎が、ふっと、映り込む。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/1000
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# by solalyn | 2017-05-24 01:48 | PROPOS | Comments(0)

遠い太鼓

 父と母。

上がってきた写真を見ながら、あとどれくらいの間、こんな写真が撮れるんだろうかと考えた。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/1000
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# by solalyn | 2017-04-14 01:15 | PROPOS | Comments(0)

テクテク パチパチ

 先日、十五年来の写真の盟友とふた月ぶりに(いつもの、あの懐かしい三十代の日々に、われらが根城だった)サイゼリヤで話をした。そのときの彼の言葉。

「たくちゃん、写真はね、眼の延長でも手の延長でもありませんよ。足の延長なんですよ。足がぼくのまわりの景色をスクロールさせていってくれるんですよ。そうやって流れていく景色を、ぼくはただ撮るだけでいいんですよ」
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f5.6 1/250
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# by solalyn | 2017-02-27 01:53 | PROPOS | Comments(0)

ODUの坂道

 先程、はじめて小津安二郎監督の『東京物語』を(アマゾンプライムで)観た。笠智衆と東山千栄子演じる老夫婦が、歩き疲れて寛永寺の旧本坊表門の前で小休止した次のシーンは跨線橋。ゆっくりと坂道を下る二人は、途中欄干越しに東京の街を遠望する。その欄干の模様を見てはっとした。声が出た。

ああ、鶯谷の跨線橋だ。凌雲橋だ。

線路際までびっしりとビルが密生している現在では、もう欄干から東京のロングショットを見ることはできない。1953年の夏に、夕暮れ前の日盛りの中を笠さんたちがゆっくり下った坂道を、2017年の冬の朝の斜光線を浴びて自転車がゆっくり上ってゆく。

結論 原節子:ほんとうにうつくしい。杉村春子:異次元のうまさ。笠智衆:神様。小津:神様の神様。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/1000
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# by solalyn | 2017-02-14 00:46 | PROPOS | Comments(0)

どこにもないところ

 島尾敏雄の小説『死の棘』のもとになった言葉が記されているという、聖書の「コリント人への第一の手紙」について検索していたはずが、いつの間にか横道に逸れていた。その横道に落ちていた言葉。

「ユートピア」という単語は、ギリシア語の”Ou(無い)”と”Topos(場所)”を、あるろくでなしのイギリス人がかけ合わせたものだという。

あ、「ろくでなしの」というのは、単なる個人的な直感で、根拠はありません。ではでは。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f2.8 1/30
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# by solalyn | 2017-02-05 23:14 | PROPOS | Comments(0)

女学生は死なず

 父方の大叔母であるクニヨは、「薩摩生まれのお転婆女学生が、そのまま年をとった」という女である。ころころとした容貌に相応しく、陽気でよく笑い、にぎやかなことがだいすきだった。

数年ぶりに会った彼女は、骨と皮だけにやせ細っていて、病室に入ったときには本人かどうかわからないほどだった。

でも、ベッドに近寄って目を見るとすぐにわかった。ああ、そうだ。この目だ。いたずらっぽく、きらきらしている目。

その日、孫やひ孫に囲まれた彼女は

「まあ、こんなに若い男に囲まれてしあわせだこと」

と言った。そういいながらも、しばらくするときっぱりこう言ったのだ。

「あなたたちはこんなところにいてはだめ。外で遊んでらっしゃい」

その台詞は、ぼくもちいさい頃彼女からよくいわれたものだった。

帰り際にぼくは、「クニヨ、遺影を撮るからポーズして」とせがんだ。彼女はちょっと笑い、親指がするするとあがってきて


カチ 
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2
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# by solalyn | 2017-02-01 03:07 | PROPOS | Comments(0)

Waters of March

 『三月の水』 アントニオ・カルロス・ジョビン


木の枝 石ころ 行き止まり 切り株の腰掛け

少しだけひとりぼっち ガラスの破片

これは人生 これは太陽

これは夜 これは死 これは銃

この足 地面 この身と骨

道路の響き スリングショットストーン

魚 閃光 銀色の輝き

争い 賭け 弓の射程

風の森 廊下の足音

擦り傷 コブ なんでもない

槍 釘 先端 爪

ポタリ ポタリ

この物語の終わり

トラックが運んでくるいっぱいのレンガ

柔らかな朝日の中

銃声 丑三つ時

1マイル やるべきこと

前身 衝突 女の子 韻

風邪 おたふく風邪

家の予定 ベッドの中の身体

立ち往生した車

ぬかるみ ぬかるみ

そして川岸が語る 三月の水


人生の約束 心の喜び

浮遊 漂流 飛行 翼

鷹 鵜 春の約束

泉の源 最終行き

落胆したあなたの顔

喪失 発見

蛇 枝 あいつ あの男

あなたの手の中の棘

そして、つま先の傷

川岸が語る 三月の水


それは人生の約束

それはあなたの心の喜び

一点 一粒 蜂 一口

またたき ハゲタカ

突如の闇

ピン 針 一撃 痛み

カタツムリ なぞなぞ

狩りバチ 染み

枝 石ころ 最後の荷物

切り株の腰掛け

一本道

そして川岸が語る 三月の水


絶望の終わり

心の喜び 心の喜び 心の喜び

この足 地面

枝 石ころ

これは予感 これは希望


- "Águas de março" Lyrics by Antonio Carlos Jobim を、菊地成孔さんがラジオ番組で翻訳・朗読されたものから文字起こししました。まるで写真だ、これは。 -
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 f8 1/500
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# by solalyn | 2017-01-18 18:51 | LYRICS | Comments(0)

Love to Thanatos

 先日、四年半ぶりに死神がやってきた。

今回はニヤニヤ笑うだけで帰っていった。ひらひらと手を振りながら遠ざかっていったその後ろ姿は、どこか自裁した友人に似ていたことに、数日後に気が付いた。
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DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f8 1/1000
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# by solalyn | 2017-01-16 13:36 | PROPOS | Comments(0)