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神主がなにごとかを発し、ぼくはいつものように両肩からカメラを下ろして頭を垂れた。
神前結婚式の撮影。いつものことだ。ただ、その日はひとつだけ、いつもとちがうことがあった。前日に学生時代からの二十年来の友人が自殺したことを知らされていたから。 書き置きに、ぼくの名前があったと聞いた。知らせてくれと。死んでいたら、知らせてくれと。 救えなかった。 神主の言葉は続いている。ぼくは普段通りに仕事をこなしつつ、ぼんやりと考え続ける。 あのときのあれは? いや、そもそももっと前のこのときにはもう・・・? 神主の言葉が終わり、お祓いがはじまった。頭を垂れたままの一同の上をあのシャラシャラしたコヨリの親分みたいな棒が振られる。 風の音がした。 大きな樹々の下で、枝の間を風が渡り、たくさんの葉が鳴っているような音。 そうか、お祓いって、体に森の風を通すことなんだな。 そう思いつくと、今度は別の声が聞こえてくる。なじみ深い、どこか訥々とした、シニカルな、でも暖かい声が。 「またそうやってきれいに終わらせようとする。大橋はすぐそうやってなんでも美化しようとするでな」 ぼくだって負けていない。すぐに反論する。 「うるさいなあ。今回だけは言わせないよ。美化しようがどうしようが俺の好きにさせてもらうから。文句は俺がそっちに行ったら・・」 ぼくはいったん両眼を強く瞑りなおしてから、眼を開けてカメラを両肩に提げた。 ![]() DATA Leica M6 Summicron 50/2 Kodak BW400CN f8 1/125
パンパンパン パンパンパン パーンと弾けて飛んで行け
パンパンパン パンパンパン パーンと弾けて飛んで行け 明日の朝 映画を見に行こう 本当の勇気を 教えてくれる様な 帰り道には きのうまでに見た 悲しい場面を忘れてしまうように パンパンパン パンパンパン パーンと弾けて飛んで行け パンパンパン パンパンパン パーンと弾けて飛んで行け 発車のベルが鳴り 一つ駅を越えた 通り過ぎるのは 早すぎたのだろう 泣いている人が ホームで手を振った 本当のお別れの アナウンスが流れる 「お待たせしました。次の駅は 幸せばっかりの 夢の駅。」 パンパンパン パンパンパン パーンと弾けて飛んで行け パンパンパン パンパンパン パーンと弾けて飛んで行け パンパンパンパパンパンパパン パーンと弾けて飛んで行け パンパンパンパパンパンパパン ‐ 「夢の駅」 作詞・作曲:甲本ヒロト ‐ ![]() DATA:Leitz minolta CL M-Rokkor QF 40/2 Kodak BW400CN f8 1/1000
バスに乗るときは、後ろのほうの窓際の席に座るのがすきだ。座って車窓の景色を眺めたり、写真を撮ったりしたいから。家人と所用のために乗りこんだその日も、そうやってカメラを持ってぼんやり車窓を眺めていた。
「ほんとにひどかったわよ」 ぼくの座席のちょうど真後ろあたりから、年配の女性らしい声が聞こえてきた。どうやら二人連れらしかった。聞くとはなしに会話を聞いてしまう。 「そうなのねえ」 「とにかくギャンブルが好きで好きでねえ。娘もまだちいさかったし、ホントによく我慢したと思うわ」 「娘さんがいくつの時に出たんだっけ」 「12のときよ」 「でもねえ。ご主人、死ぬまでずっとあのアパートに住んでたなんてねえ」 「そうなの。あたしも聞いてびっくりしちゃって。あれから30年もねえ」 「帰ってくるのを待ってたのかもしれないわよ。引っ越しちゃうと、ほら、わからなくなっちゃうから」 しばらく沈黙があった。バスは浅草を越えて、大川を渡るところだ。ぼくは水面になにか-たとえばネッシーやらクッシーやらタマちゃんやら-を見つけたように目を凝らすフリをしていた。そうこうするうちに、もうすぐ開業する巨大な塔が見えてきた。昔TVで見た、有名人の豪華ホテルでの結婚式に出てくるケーキみたいな塔。 「そういえばね、こないだ夢に出てきたのよあの人」 だしぬけにまた声が聞こえた。 「あたし、あのアパートに帰ってるの。あの人もいるの。でもね、部屋がね、うんと広いのよ。そりゃあもうびっくりするくらいに。それであの人、笑ってるの。ねえ、おかしいでしょう」 ![]() DATA:Leitz minolta M-Rokkor QF 40/2 f8 1/500
「良くも悪くも、僕は本能的な作家なんだ(略)僕はプログラムをこしらえたり、あるいはこれこれしかじかのテーマに適した話をみつけてくるというような作家じゃない。僕には幾つかのオブセッションがあって、僕はそいつに『ヴォイス』を与えようとしているんだ。たとえば男と女の関係、どうして僕らは往々にして自分たちがいちばん価値を置いているものを手放す羽目になるのかということ。自分たちの中にある力や資質をうまく扱えないこと。僕はまた生きのびるということにも関心がある。どん底にまで落ちたときに、人はどのようにすれば浮かび上がれるものかということにね」
-ウィリアム・L・スタル「『カーヴァーズ・ダズン』のための序文」より "Carver's Dozen"所収- ![]() DATA:Leitz minolta CL M-Rokkor QF 40/2 Kodak BW400CN f8 1/125
叱られた後にある 晩御飯の不思議
あれは魔法だろうか 目の前が滲む 正義のロボットの剣で 引っ掻いたピアノ 見事に傷だらけ こんな筈じゃなかった 大きくなるんだ 伝えたいから 上手に話して 知って欲しいから 何て言えばいい 何もわからない 君の願いはちゃんと叶うよ 楽しみにしておくといい これから出会う宝物は 宝物のままで古びていく 確か赤だった筈だ 三輪車 どこまでだって行けた ひげじいがくれた熊は よく見たら犬だった プラスチックのナントカ剣で 傷つけたピアノ 模様のつもりだった 好きになろうとした 大きくなるんだ 仲間が欲しい わかり合うために 本気を出せる様な 基地が出来るまで 帰らない様な 期待以上のものに出会うよ でも覚悟しておくといい 言えないから連れてきた思いは 育たないままで しまってある 更に増えてもいく 怖かったパパが 本当は優しかった事 面白いママが 実は泣く時もある事 おばあちゃんが 君の顔を忘れたりする事 ひげじい あれは犬だって 伝え様がない事 いつか全部わかる ずっと先の事 疑いたいのもわかる 君だからわかる メソメソすんなって 君の願いはちゃんと叶うよ 怖くても よく見て欲しい これから失くす宝物が くれたものが今 宝物 君の願いはちゃんと叶うよ 大人になった君が言う 言えないから連れてきた思いは 育てないままで 唄にする 叱られた後にある 晩御飯の不思議 その謎は 僕より大きい 君が解くのかな こんな風に 君に説くのかな - BUMP OF CHICKEN 「魔法の料理~君から君へ」 (作詞 藤原基央 作曲 藤原基央) - ![]() DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak BW400CN f4 1/125
ご存知の方も多いかもしれないのだが、去年から縁あって写真教室を始めた。
教室と言っても生徒さんは一名。そもそも、 「古典的かつ実戦的なストリートスナップをモノクロフィルムでやりたい」 という、かなりニッチな要望だったので、「教えてます」というより、「二人で相談しながら運営してます」というほうが実情に近い。 教室を始めたころ、ぼくはスナップがあまり撮れなくなっていた時期だったんだけれども、教室が始まり、実習として街を歩くうちに、自然とまたぽちぽちと撮れるようになっていった。思えば恵まれた縁だったな、と思う。 「たくやんの写真には、気配が写ってる。脱ぎ捨てた洋服に、着ていたひとのぬくみが感じられるような」 「あたしが撮りたいものに、よりまっすぐ向かえるようにしてくれる」 「あたしがちゃんと撮れるようになったら、たくやんはすっと消えていくような気がする」 写真の神様、ありがとう。 実習の終わった後に、木村伊兵衛さんが住んでいた街の喫茶店で二人で話しているとき、ふとそう思った。 ぼくの神様は伊兵衛さんの姿をしていて、その伊兵衛さんによく似た神様はちょっと目をパチパチさせてから、 「オツなもんですよ」 そう言ってにやっと笑うとライカを抱えてふらりと行ってしまった。 ![]() DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak BW400CN f2.8 1/30
ひとにやさしくされると にげたくなる
ぼくはそんなことされるのにふさわしいにんげんじゃあありません って じゃあ どんなにんげんなのか かんがえてみる かんがえてみるがよくわからない にげたくなるくせに よろこばせるのがすきで にげたくなるくせに わらわせるのがすきで われながらこまったものだと おもったり おもわなかったり すぐににげたくなるぼくなのに ぼくのまわりのひとたちは ぼくのことをにこにこみてくれる すぐににげたくなるぼくなのに きづいたら まわりでたくさんのひとが にこにこにこにこしてくれていた よろこばされたり わらわされたりしていたのは ぼくのほうだった ひきうけよう、とおもった もうにげない たぶん ひょっとすると あるいは おそらく とにかく そんなことをかんがえた ![]() DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak BW400CN f8 1/125
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